日本は少子高齢化による今後の人口減少が予測されており、国内の市場規模は縮小傾向にあります。それに対し海外に目を向けると、平均年齢が若く消費が活発で今後人口増加見込みのある国が複数存在します。こういった現状を受け、近年では、大企業・中小企業ともに海外進出市場を開拓し、国外市場での売上・利益増加を図る風潮が広がってきています。日本企業の海外進出の現状と推移、また海外進出のメリットと課題を明確にしましょう。
日本企業の海外進出の現状
ジェトロが毎年実施する「日本企業の海外展開に関するアンケート調査」の2019年度版では、海外ビジネスに関心の高い日本企業3,563社を対象として現在行っている海外ビジネスを調査しており、そのうち「輸出を行っている」企業は72.8%となっています。輸出の中でも、「直接輸出」は57.3%、「間接輸出」は49.8%という結果です(複数回答)。企業規模別に見ると、大企業のうち67.4%、中小企業のうち73.8%が「輸出を行っている」と回答しました。このことから、海外ビジネスに関心の高い企業においては、企業規模に関係なく積極的な輸出を行っていることが分かります。
また、海外ビジネスに関心の高い企業のうち、「海外拠点がある(代理店は含まず)」と回答したのは44.4%であり、輸出を行っている企業(72.8%)が必ずしも海外拠点を持っているわけではないことが分かります。
海外拠点を持つ企業のうち、拠点所在国として最も多いのは「中国」(56.4%)、次に「タイ」(34.1%)、そして「米国」(28.0%)と続きます。上位の国には米国を除き東アジア・東南アジアの国々が並びます。また拠点の機能としては、「販売拠点」として持つ企業が62.0%、「生産拠点」として持つ企業が50.3%となっており、販路拡大または生産コスト低減を目的として海外拠点を持つ企業が多数であることが分かります
(出典:JETRO 2019年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/1057c5cfeec3a1ee/20190037.pdf)
また、外務省が実施した「海外進出企業実態調査」では、2017年10月の時点で海外に拠点を持つ日本企業の総数(海外拠点数)は75,531拠点という結果がでており、2005年から2017年にかけて増加傾向にあります。
国別の拠点数調査では、中国に日系企業全体の約43%、アメリカに約11%、3位以降はインド、タイ、インドネシア、ベトナム、ドイツ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、メキシコ、台湾とアジア諸国がトップ12か国を占めており、またこれら上位12か国で日系企業が持つ拠点全体の8割以上を占めています。
(出典:外務省 2017年海外在留邦人数調査統計/海外進出企業実態調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00300100&tstat=000001055779&cycle=0&tclass1=000001116075&stat_infid=000031704490)
JETRO調査、外務省調査の双方のデータより、アジア地域を海外進出先として選択している企業が多いという実態が分かります。
日本企業の海外進出の傾向と推移
ジェトロが毎年実施する「日本企業の海外展開に関するアンケート調査」では、海外ビジネスに関心のある企業に対し、今後3年程度の海外進出方針を尋ねており、2019年度では「さらに拡大を図る」「新たに進出したい」と回答し海外進出に対し積極的な姿勢を示した企業が56.4%を占めました。すでに海外進出している企業も含む海外ビジネスに関心のある企業のうち、半数以上がさらなる海外進出に積極的な意向を持っていることが分かります。2011年度以降の時系列でみても、毎年55%を上回る企業上が積極的な意向を持っており、10年以上海外進出トレンドが続いていることが分かります。
(出典:JETRO 2019年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/1057c5cfeec3a1ee/20190037.pdf)
海外進出のメリット
日本企業が海外進出することで得られるメリットを4つご紹介します。
販路と売上の拡大
日本国内は少子高齢化による人口減少に伴い、国内の市場規模は縮小傾向にある一方で、世界規模では、特に新興国を中心に、今後さらなる経済成長と人口増加による市場の拡大が期待されています。海外市場、特に今後市場が拡大する国をターゲットとすることで販路を拡大し、更なる売上増加を狙うことができます。
日本では競合多数の飽和市場である商品も、海外ではまだ未開発で参入余地がある場合があります。すでに開発済みであり日本国内でノウハウを蓄積した自社製品を強みに、市場を変え現地の需要に応えることで売上拡大を期待できます。
コストの低減
2つめの海外進出のメリットとして、労働力と資材・設備・原材料面での調達コスト低減が挙げられます。特に新興国においては、日本と比較して人件費が安いことから、商品の生産コスト削減が期待され、また海外からの安価な資材・設備・原材料の調達により、利益増加と価格競争力のある商品づくりが可能になります。
節税効果
3つめに、進出国によっては節税効果が期待できます。海外でも日本と同様に利益に対して税金がかかりますが、進出する国や地域によっては日本より税率が低いこともあります。国によっては外国企業の誘致を積極的に行っており、税制面での優遇精度を設けていることもあります。例えば東南アジア地域においてはベトナム、マレーシア、カンボジアなどが経済特区を設け税制面での優遇を受けられます。税制面も考慮し進出国を検討することで、最終的な利益増加を狙うことができます。
ひとつの商品に集中
4つめに、海外へ市場規模を広げることで、ひとつの商品に経営資源を集中させることができます。日本の国内市場では市場が小さく縮小傾向にあり、1つの商品だけでは利益拡大が見込めないことから、業種を広げ商品・サービスの種類を増やし多角化する戦略を取ります。しかし今後拡大傾向にある海外市場へ進出することで1つの商品・サービスのみでの十分な利益獲得を狙えます。多角化により経営資源を分散させるのではなく、ノウハウが蓄積された本業の1つの商品・サービスに集中することで、その商品にかけられる資源が増加し、高い品質で勝負することができます。
海外進出の課題とリスク
海外進出には、海外ビジネスならではの課題とリスクが伴います。課題とリスク面について、具体的な対処方法を検討しておく必要があります。
現地の情報不足
現地の情報を日本語で入手することは難しく、日本国内でのビジネスをする場合と比較して情報が不足しがちです。特に初期段階においては現地企業とのコネクションやネットワークが少なく、現地の産業に精通した競合他社よりも情報面で不利になることが考えられます。
なるべく法律面から現地の競合他社、流通経路、そして生活面まで事前に調査した上で、最新の情報を常に仕入れていく必要があります。場合によっては現地企業に詳しい日系コンサルティングサービスを利用するなど信頼性の高い情報を入手する手段を作っておくことが大切です。現地人でなければ分かりづらい制度や、現地語での問い合わせや交渉が必要になる場合も多く、現地の法律・ビジネス・生活面に精通した人材を採用したり、現地ネットワークづくり行ったりと意識して情報収集を行う必要があります。
人材の確保と管理
海外進出にあたっては、自社より現地へ派遣する人材を確保し、また現地人材を雇用・管理する必要があります。まず、自社より派遣する人材については、自社の商品について知識があり、かつ英語または現地語が、海外でのビジネス経験がある人材が望ましいです。しかしながら初めての海外進出にあたってそのような人材を社内から探すのは難しく、新たに海外ビジネス経験のある人材を雇用するか、社内人材の中から選出し海外進出に詳しい専門家へ顧問を依頼することになります。
また、現地人材を雇用し管理する際は、日本との商習慣の違いにより、遅刻が一般的に受け入れられていたり、離職率が高いなど、想像以上に困難が伴います。自社より派遣する人材が英語・現地語に疎い場合には、日本語が話せる現地人材を探す必要があり、期待する条件を満たす人材の確保が難しくなります。
進出初期コスト
海外進出前と初期にはコストが伴います。例えば、進出前の現地調査、設備投資が必要な場合には設備費用、法人設立費用・現地コンサルティング費用、新しくオフィスを借りる場合の敷金、新規人材採用コストなど多岐にわたり、まとまった費用が必要になります。
政治・地理的リスク
新興国や発展途上国は人件費が安く、これから経済成長と市場の拡大が期待される反面、政治情勢が不安定であったり、ビジネスに関連する法律や外資系企業に対する待遇の変更が急に起こったりする可能性が否定できません。また地震、津波、洪水、噴火といった天災が起こりやすい地域でも日本の災害対策のような十分な対策がなされておらず、甚大な被害を被る可能性もあります。国際情勢の変化により、周辺国との関係が悪化して戦争が勃発することもあり得ます。
為替レートの変動
新興国や発展途上国の通貨は、日本円に対する為替レートが急激に変動するリスクがあります。現地通貨の価値が下がってしまえば、たとえ同じ商品を同じ価格で売ったとしても、日本円に換算すると利益が出なくなってしまったり、最悪の場合コストを考えると赤字になる可能性も考えられます。ただし、契約時点におけるレートで銀行を通じて為替予約をすることで、為替変動リスクを回避することができます。
商習慣・言語・文化の違い
日本でのビジネスにおいてほぼ常識ともいえる「時間を守る」「納期を守る」「メールに返信をする」といったことが、他の国の商習慣では当たり前ではないこともあります。日本のビジネス感覚を相手国のパートナーやクライアントに期待しても、想定通りに行かない事態に直面します。また言語の壁が存在し、通訳が必要だったり、その際に本当に伝えたい内容が伝わりづらかったりといった、海外企業とのやりとりならではの難しさがあります。
国や地域によっては宗教の習慣がビジネス活動においても密接に関わっており、従業員や顧客企業担当者の日々の生活で必要不可欠な要素となっていることもあります。例えば1日の間に数回お祈りの時間が必要であったり、宗教の規程に即した食事面であったり、宗教でなくてもベジタリアンやビーガンの場合には配慮が必要です。個人の信仰や習慣を尊重した上で多様性を受け入れ、会社として柔軟性の高い職場を作っていく意識が大切です。
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