日本国内の市場縮小が見込まれていることから、先進国・新興国含む海外進出トレンドが続いています。自社の国内での売り上げが伸び悩んでいたり、取引先企業や競合企業が海外進出に踏み切ったりするのを見て、海外進出を検討されている企業の方も多いのではないでしょうか。海外進出のメリットと合わせて、海外進出の検討プロセスと実施方法について、どのような事項の調査が必要か、何を検討すべきかを具体的にご紹介します。
海外進出のメリット
販路拡大
日本国内は少子高齢化による人口減少に伴い、国内の市場規模は縮小傾向にある一方で、世界規模では、特に新興国を中心に、今後さらなる経済成長と人口増加による市場の拡大が期待されています。海外市場、特に今後市場が拡大する国をターゲットとすることで販路を拡大し、更なる売上増加を狙うことができます。
人件費・税金などのコスト削減
特に今後の経済成長が見込まれるような新興国に生産拠点をおくことで、労働力と資材・設備・原材料面での調達コスト低減が期待できます。日本と比較して人件費が安いことから、商品の生産コスト削減が期待され、また海外からの安価な資材・設備・原材料の調達により、利益増加と価格競争力のある商品づくりが可能になります。
また、進出国や地域によっては日本よりも税率が低いことや、外資系企業に対して税制面での優遇を行なっているところもあり、そういった国や地域に進出することで節税効果が期待できます。例えば東南アジア地域においてはベトナム、マレーシア、カンボジアなどが経済特区を設けており、税制面での優遇を受けられます。税制面も考慮し進出国を検討することで、最終的な利益増加を狙うことができます。
主力商品への経営資源の集中
海外へ市場規模を広げることで、主力商品に経営資源を集中させることができます。日本国内市場は縮小傾向にあり、1つの商品だけでは利益拡大が見込めないことから、業種を広げ商品・サービスの種類を増やし多角化する戦略を取りがちです。しかし今後拡大傾向にある海外市場へ進出することで自社が特に強みをもっている主力の商品のみで十分な利益獲得を狙うことができます。多角化により経営資源を分散させるのではなく、自社内でのノウハウが蓄積された主力商品に経営資源を集中させることで、その商品にかけられる資金や人材が増加し、高い価値でグローバルに勝負することができます。
海外進出の検討プロセス
1. 海外進出の目標を設定する
海外進出の検討にあたっては、海外進出の目的をはっきりさせ、自社での明確な目標を定めることが大切です。進出を考えるきっかけは、新規市場の開拓、生産コスト削減、調達拠点の設置、新規事業の立ち上げなど様々ですが、海外進出の目的と自社の事業戦略の中での位置づけをはっきりさせることが重要です。
数年前までは新興国の賃金の安さからコスト削減のための海外進出が多く見られましたが、最近ではそういった新興国の国々でも賃金や物価が著しく上昇しているため生産拠点としての進出は見直しを迫られている状況です。以前は生産拠点として注目されていた地域も、経済発展による購買力の上昇や人口の増加に伴い、販路拡大先としての日本企業の進出も見られるようになりました。海外では新興国をはじめ経済成長が著しく数年で賃金や物価、人々の生活環境が変化している地域が多く、自社の強みを理解した上で長期的な視野を持って進出を検討する必要があります。
海外進出の目的を明確にするため、「なぜ、いま進出する必要があるのか」「国内への投資ではいけないのか」「社内体制は十分か(人材・資金繰り)、十分でない場合どのように対策するのか」「社内で合意が得られるか」「海外進出以外にどのような選択肢が考えられるか」といったポイントを改めて確認しましょう。
目的が明確になったら、次に具体的な数値目標を決めていきます。この国が成長すると聞いた、海外進出すると売上があがるようだ、というような漠然とした目標ではなく、「いつまでに、いくらの売上をあげたいのか」、「どれくらいコスト削減を行いたいのか」といった具体的な数値目標を掲げます。以降、その目標を達成するべく有望国の選定を行い、事業の仮説を作っていきます。
2. 海外進出先の有望国を選定する
進出先候補をリストアップした上で、人口や地理的特徴・国の制度や法律・経済状況といったマクロ環境と、対象とする業界の市場規模や成長性、そして「いつまでに」「どの規模のビジネスをするか」という自社目標の3つの角度から各国を比較・検討し、進出有望国を検討します。
マクロ環境については、法規制上自社ビジネスの進出が可能か、外資規制はあるのか、政治・経済は安定しているか、人件費・労働者の質はどうか、といった点を調査します。例えばJETROのウェブサイトで国・地域別情報や投資コストの比較が可能となっているので、活用しましょう。
・国・地域別情報: https://www.jetro.go.jp/world.html
・投資コスト比較: https://www.jetro.go.jp/world/search/cost.html
・貿易・投資相談Q&A: https://www.jetro.go.jp/world/qa.html
対象とする業界の市場規模や成長性については、各国での業界構造が日本のものとは異なるため、自社の戦略や競合との競争に大きく影響します。業界全体および調達ルート・販売ルートを含め各国の情報を細かく調査し、サプライチェーン上の自社の位置づけを明らかにして戦略を検討します。
3. 事業仮説の検証
進出有望国が決定したら、次に現地で行うビジネスモデルの仮説を立てます。はじめに日本で予備調査として、進出国での法律上の規制や、政治・経済・社会情勢、市場規模や流通事情、労働・賃金・労働関係法規則、駐在員のビザ・生活環境、外資政策・外資規制、税制、原材料の調達やインフラの整備状況、資金調達・金融制度といったマクロ環境をさらに詳細に調査します。これらの情報を調査することで、具体的にどういった手続きが必要か、どれくらいコストがかかるのか、どのような進出形態がいいのかを検討します。
そして、進出有望国の市場の状況や競合他社についても、さらに詳細に調査をします。具体的には、まず市場規模、成長性・将来性といった市場調査を行い、次に競合調査として競争環境と現地の競合を把握します。消費者や市場のプレーヤーへのインタビュー調査を行うと、より現実的かつ具体的な市場状況と競合他社についての情報が手に入ります。
外部環境の詳細な調査ができたら、自社が持つ経営資源を整理し、海外進出にあたり強みとなるポイントとその活用方法について仮説を立てます。具体的には、「ターゲット顧客が抱えている問題は、自社が持つこの経営資源によって解決できる」という仮説を立てます。自社商品の価格・性能・ブランド力・顧客満足度といった表面的な強みに加え、生産能力や生産・開発までにかかる時間、問題解決能力、改善・実行力といった自社組織の持つ本質的な強みを整理しておきましょう。自社内の経営資源について棚卸しし、言語化する作業が大切です。
最後に、実際に現地の情報に詳しい機関の方や、ターゲットとなる消費者、見込みのある取引先、同業者などへインタビューを行い、仮説を立てたビジネスモデルの実現可能性を検証します。
4. 現地パートナーを探索する
販路拡大を目的とした海外進出であれば特に、言語も商習慣も異なる海外において自社の日本人人材だけで販路を開拓していくのは困難です。現地市場に詳しく、知識と経験があり、ネットワークを持っている現地パートナーを探すことが重要です。
現地パートナーを見つけるにあたって、重要なのは「現地パートナーに求める機能」と「自社が現地パートナーに提供できる価値」の2つを明確にすることです。自社で策定したビジネスモデルに基づき、現地パートナーに求める機能を明確にして、その目的に沿った候補先をリストアップします。そして、現地パートナー候補について、現地市場でのポジショニングや実績を調査し、リストの絞り込みを行います。
リストの絞り込みを行ったら、現地パートナー候補に連絡をとっていきます。その際重要なのは、自社が現地パートナーに提供できる価値を明確にし、win-winの関係を築けますという魅力をアピールすることです。自社のブランド力や技術力、現地にはないサービスといった自社のユニークな価値により、パートナーの事業も一緒に成長していくという具体的なイメージを描いてもらえるよう、候補企業とコミュニケーションを取ります。
現地パートナー候補の選定の際には、財務的な信用と、業界での評判を事前に調査しておくと、後からのトラブルを防ぐことができます。海外ビジネスにおいては、技術を盗まれるリスク、現金回収の懸念などがあるため、パートナー候補の信用情報や公になりにくい評判を知ることは、リスクの低減に繋がります。財務情報は、信用調査機関などから入手可能です。入手困難な場合には、直接依頼して財務情報を入手する方法もあります。また、現地の業界内の人に聞き込みをし、当該業界内での評判も事前にチェックしておくといいでしょう。
5. 海外進出と事業の立ち上げ
現地パートナー企業の目処がついたら、実際に海外事業の立ち上げに移ります。進出形態には、パートナー企業の買収、合弁会社の設立、業務提携や資本提携、自社での現地法人設立など様々な形態が考えられますが、事前に検討したビジネスプランに合った最適な進出形態を選んで実行に移します。海外進出事業は、国内事業と同様の事業内容であっても未開拓の市場であるという点で新規事業の性質が強いものであることを理解し、資金面や人材面といった経営資源を含め 十分な社内体制を整え、経営者自らが強いコミットメントを持って臨むことが重要です。
海外進出のための戦略
海外進出の是非と参入戦略
日本の人口減少に伴う国内市場の縮小傾向から、海外進出トレンドが続いており、競合他社や取引先が進出に踏み切るのを見て自社の海外進出を検討している企業もあるのではないでしょうか。しかしながら、重要なのは自社の事業戦略内での海外進出目的をはっきりさせ、具体的な目標を持って参入の意思決定を行うことです。その場合、海外進出以外に考えられる国内での事業拡大方法やコスト削減方法とも十分に比較検討を行いましょう。なぜ今進出する必要があるのか、なぜ海外である必要があるのか、人材や資金面において社内体制は十分か(十分でない場合の対応策は)、という問いに対し具体的な根拠を持って回答できるようにすることで、社内で合意を得る際や資金繰りの際に、説得力を持って海外進出の意思決定を説明できます。
海外進出準備
海外進出の準備段階においては、事業計画の策定とともに、マーケティング戦略の詳細化、税務戦略の策定なども行い、実際の投資実行に向けて不確定要素をなくす、あるいはリスクを見極めて対応プランを考えていけるかがポイントとなります。「だれに」「どんな価値を」「どのように提供するか」を詳細に詰めるマーケティングの検討も準備段階で十分に進め、マーケティング戦略に沿った事業計画と実行プランを作成します。マーケティング戦略の実現に向けては、具体的な拠点の立地、物流・調達におけるサプライチェーン構造と周辺業務の明確化、現地での組織作り案を策定します。海外進出にあたり、特に初期では現地のビジネス環境に精通した公的機関やサポート企業に相談し、準備を進めていくことがおすすめです。
オペレーション構築
海外進出にあたり、事業・マーケティング計画をもとに現地事業のオーペレーション(運営体制)を実際に構築していきます。現地での営業活動体制、サプライチェーンの構築、ITや人事・総務・経理など社内業務体制を整え、現地法人の設立と各種許認可の申請を行います。例えばサプライチェーンの構築においては、物流会社や調達先、販売チャネルなどと交渉を行い、社内業務体制の構築には、人事労務制度の整備や人材採用・教育、社内のIT基盤の整備などを実施します。
創業後のオペレーション
現地での創業後、業務を行なっていく中で多くの課題に直面します。組織の構築や運営を行なっていく中で、人材育成が十分にできていない、ITの導入が遅れている、など問題は様々です。創業後も、海外事業を行なっていく中での課題を精査し、常に改善・最適化していく必要があります。
さらなる事業拡大と、業務最適化
海外での事業を行なっていく中で直面する課題、実行していても売上が上がらない、利益が上がらないという問題がある場合や、さらなる売上拡大を目指す場合には、再度事業計画やマーケティング戦略を見直し、業務効率の工場とコストダウンを目指していく必要があります。利益を出せる事業体制を構築することで、世界各国の競合他社との競争に打ち勝つことができます。事業計画のマーケティング戦略の見直し、組織や人材の最適化、IT基盤の最適化など様々な側面から改善点を見つけ、実行していきます。
まとめ
海外進出は、漠然とした動機や目標だけでは成功させることは困難です。明確な目的と数値化された目標の達成に向けた、事前調査と施策の検討、実際の運営に向けた事前準備が必要になります。その際には現地事情に精通した専門家のアドバイスを受けることも重要でしょう。また、経営戦略としての長期的な視点に加え、運営開始後に直面する様々な問題に対し、常に調査・仮説を立てる・実行するPDCAサイクルを回していく短期的な視点と経験と知識の豊富な人材が必要です。
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